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戦友Tumi死す [春秋庵-日々の消息を語る草庵-]

 戦友が死んだ。
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 まさに戦友というべきだった。彼とで会ったのは2011年冬のニューヨーク。年越しをハドソン川の水上、パーティー船で家内と堪能し、翌元旦の早朝、大きなスーツケースとたくさん土産物を入れた袋を持ってホテルを出た。しかし、袋が持ち運びにはあまりに不便だった。そう思っていたところに、JFK空港の売店に彼がいた。
 今はすっかり戦塵で薄汚れてしまったが、メタリックでありながら下品ではない蒼い輝きは、まさに青春というにふさわしかった。その若々しい気宇に、励まされたものだ。
 そして世界各地で戦闘に従事した。ブエノスアイレス、メキシコシティ、ケープタウンという遠方にも同行した。まるまる1か月、ロンドンを基点にパリ、ブリュッセル、ベルリン、ジュネーブ、そしてまたロンドンと仕事で回ったときは、あまりの移動の多さに大きなスーツケースを持って行くのを諦め、コンパクトな戦友に荷物をギチギチに詰め込んでヨーロッパ中を飛び回った。忘れもしない山形の夜、ついにTSAロックのシステムが悲鳴を上げ、涙ながらに介錯するようにペンチで強引に開けた。しかしその後も彼は文句ひとついわず、私の強行軍に同行してくれたのだ。
 まるで骨の芯が折れるように、キャリーする際の把手が折れてしまった。予兆は何もなかった。予兆を語るような彼ではない。常に健常で、不安などないようなそぶりをしていながら実は疲れていたのだろう。居酒屋から持ち出すために把手を引き上げようとしたら、出てこなかった。苦心して修復を試みたが、ここが彼の引き際だったのだろう。感謝の念に堪えない。また新たな友とともに、私は闘いに出る。
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