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世界標準が、巨龍の尻尾をつかむ全日本卓球。 [観趣庵-詠聴に遊ぶ草庵-]

19日に男女シングルスの決勝がおこなわれた全日本卓球選手権。素晴らしい試合だった。その素晴らしさを一言で言えば、全日本の決勝で、「ガチ」のワールドスケールの試合が行われた、ということだ。男女とも。

事前に告白しておけば、優勝した男子・宇田、女子・早田はいずれも私の「推し」選手だ。なぜ「推し」なのかといえば、二人とも、試合の仕方が、世界的なプレースタイルを純朴にやるタイプだからだである。無理なく、世界標準のプレーができるとこに、可能性と魅力を感じずにはいられないのである。そう、日本卓球は、日本で勝つことと、世界で勝つことが別次元である次官が長かった。その時代を打破してくれる可能性を感じさせてくれるのだ。

もう語られなくなった過去のことをいえば、世界の卓球は長らく、オフェンシブなペンホルダー、オールラウンドなシェイクハンド、ディフェンシブなカットマン、という3タイプの対抗戦だった。特に1980年代は、男子では、表ソフトを貼ったペンホルダーで、素早いフットワークを武器にフォアで高速の攻めと守りを放つ中国と、少し下がって裏ソフトで回転のかかったドライブでの力勝負を挑むスウェーデンの2強が光彩を放った。

ではその頃、日本はどうだったのか。1960年代まで世界を席巻した日本の卓球は、そこまでが強すぎたが故に、独自の進化を歩むことになったのだ。中国ほど素早いフットワークはないが、スウェーデンほど体が大きくもなくドライブ勝負する力があるわけでもない。そこでサービスや台上の技術などで勝負という「伝統」で戦ってきたのだが、如何せんそれをどれだけ磨いても、「進化」ではなく、「退化」にしかならなかったのだ。

その間、世界は別途凄まじい進化の道を歩んでいた。用具テクノロジーの進歩により、裏ソフトでも表ソフトに引けを取らないスピードが出るようになると、表ソフトのスピードで勝負していた中国の特権は薄れたが、すかさずそこに新技術を持ったスターが登場する。80年代からの20年間も世界の第一線で戦い続けたスウェーデンのスーパースター、ワルドナーを除けば、90年代になるとペンホルダーに両面を貼った劉国梁、中国初のシェイクハンドの世界チャンピオン孔令輝が登場することで世界の卓球が一変する。その後も、数多くのトップ選手を輩出し、「科龍大戦」とまで呼ばれた張継科、馬龍(ここまで名前が出た5人が、ワールドカップ、世界選手権、オリンピックのシングルスを優勝する「大満貫」の達成者だ)の現代になると、相手の懐を抉るサービス、フォアもバックも関係ないチキータレシーブ、相手を力で挿し込むラリーと凄まじい反応速度で繰り出されるブロックを駆使し、最後はノータッチエースをとるか、そうした時代になってきた。

その間、しかし、日本は長らく「日本の卓球」のままだった。福原愛は正統な女子日本卓球の継承者で、しかしそれで世界に伍していこうとすれば、得意のバックハンドに磨きをかけるしかない。彼女のバックハンドは超一流だったが、フォアは最後まで世界の一戦レベルには達せず、水谷準は変幻自在のサービスでアドバンテージを掴みラリーも強かったが、中国の超一流の両ハンドには下がってロビングで粘るシーンが多くなった。石川佳純は日本選手としては例外的にフォアが強いが、それでも中国選手には歯が立たない。日本選手権の人気は上がっていったが、世界で見られるような、相手が呆然と見送るようなノータッチなど、トリッキーなプレーを信条とする丹羽を除けば国内ではほとんどお目にかかれなかった。

日本卓球も、いま、確実に進化の先端にある。伊藤美誠は、ある意味、その小さな身体すら武器にして特異な技術を磨き上げた選手だし、張本智和はそう大きいとは言えない体を体軸をフル回転させる技術とスピードで世界と戦っている。彼らの戦いにはようやく、相手が唖然とし、観客が湧く高速のノータッチラリーが見られるようになった。

さらに、今回の全日本で勝った二人は、ともに恵まれた体格を持ち、ラリーも技術もシンプルな世界標準をやろうとしている。準決勝、決勝で、石川や伊藤の懐に刺さるような早田のサービスや、張本との振り回しフォアラリーが続いた最後に厳しくサイドを切ってエースを取る宇田のスイングは、日本ではかつて見られなかったものだ。それを無理なくできているところに、可能性と時代の変わり目を感じさせる。

二人はおそらく、天才だ。しかしもちろん、この二人が五輪代表でないことも事実だ。宇田も早田もめざましい、というほどの世界での実績は残していない。決勝の宇多は、解説の宮崎前監督が言っていたように少々神がかっていたし、早田もハマった時とそうでない時の落差が激しい。五輪代表としては現在のメンバーが最強といえるだろうが、そのメンバーが日本選手権では伊藤を除いて活躍できなかった落差を埋められたとき、いよいよ、日本卓球の光明が輝く。天才が深夜まで緩むことなく限界まで磨き上げた卓球の向こうに、いよいよ、巨龍中国の背中が見える。
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