SSブログ

安倍首相の「スキャンダル」 [観趣庵-詠聴に遊ぶ草庵-]

 安倍晋三首相が、史上最長任期を前に危機に立たされている。
 これまでひどいことがたくさんあった安倍政権だが、野党がどんなに追及しても、マスコミがどんなに批判しても、彼の政権が揺らぐ、というほどのことはなかった。野党がその代替になるほどの力を持ち得ていない、という評価もあたってはいるが、より抜本的には、安倍首相には「金と女」のスキャンダルの要素がからっきしないからである。下世話な話だが、歴代政権のほとんどがこのどちらかのスキャンダル(金がほとんどだが)から倒れてきたことを思えば、世間はやはり、公文書記録の廃棄といった国家の根幹を揺るがすことよりもこちらのほうに反応するのであって、これは不思議でも何でもない。
 世のふつうに生まれた人が政治家を志し、ましてや一国の宰相をやろう、なんてことになれば、ふつうその人が工面できる上の金が必要になる。だからどの政治家にも、どんなに清廉でも、篤志をもって世話をする支援者がいるものだが、それがどんなに高潔な篤志であっても、やはり金のやりとりというのは何らかの意味で人を縛っていき、後ろめたさにもつながる。これは自民党だけでなく、民主党政権のときだってそうだった。しかしどうやら安倍首相は、みずからが宰相として振る舞うためにあまり金の苦労をしていない、金のために頭を下げる必要がなさそうなのだ。それを補うくらいの金は持っていそうだ、ということだ。
 しかも彼の場合、時代がよかった。官房長官として仕えた小泉元総理が、派閥というものを「ぶっ壊した」あとだったからだ。どんな艶福家に生まれ育っても、自分一人は何とかなったとしても派閥の子分たちの面倒を見る金を生むことは難しい。かの吉田茂は父方は貿易業の資産家、母方はご承知のとおり大久保利通・牧野伸顕の家系であり、金に苦労する家ではなかったが、それでも首相在任中に身代をすり潰し、大磯の家しか残らなかったという。しかしそれでも、彼は派閥を養うほどの金はなかった。それを思えば安倍首相は、奇跡的なタイミングで、「金のかからない自民党総理総裁」を務めることができている。女については何も知らないからいいようがないが、大変な愛妻家なのか恐妻家なのか(それは一般に裏表だから仕方がない)。昭恵夫人にはいろんな評判があるけれども、還暦を控えてあの愛らしさは首相が一生をかけて愛情を注いでも不思議はない。いや、やはり他人が言いすぎているか。

 いずれにせよ、金と女のスキャンダルに縁がなかった安倍首相である。下衆なことをいえば、だから少々人としての魅力や面白みに欠けるといえなくもないが、そういう面白みこそをコンプライアンス違反だと騒ぎ立てる世の中だから、いってみれば「これといって何もしない」安倍首相の処世術はなかなかのものである。
 その安倍首相に、初めて降って湧いた金のスキャンダルだ。本人ではないかもしれないが、少なくとも事務所の人たちのスキャンダルだ。実は、ひょっとしたら乗り切るのではないか、とも思っている。なぜなら、首相自身はこんなことで資金調達をしなければならないほど金にも、またこんなことで票を集めなければならないほどの選挙戦にも困っているわけではないから、ほんとうに知らない可能性がある。しかし逃げ切れたとしても、金のスキャンダルは相当政権が痛む。そうしたなかで、日米関係など重要案件は進んでいく。こちらもとても重要だ。
 しかし人の、民主主義の興味はやはりスキャンダルへ行く。それは良くも悪くもない現実だ。安倍首相は、というより、首相本人の意思とは別に安倍首相の周辺に起きることどもは、決定的なほど、大衆化された社会のシンボルなのかもしれない。
キッチュな国民像犬に噛まれる ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。